Bさん(35歳)は、約2年半にわたる歯列矯正を終え、長年の悩みだったガタガタの歯並びから解放されました。しかし、装置が外れた日、鏡を見て手放しで喜ぶことができませんでした。綺麗に並んだ上の前歯と前歯の間、歯茎に近い部分に、ぽっかりと黒い三角形の隙間ができていたのです。これこそが、矯正治療後にしばしば見られる「ブラックトライアングル」でした。ブラックトライアングルは、虫歯ではなく、歯茎が下がることで、本来そこを埋めていたはずの歯間乳頭(歯と歯の間の三角形の歯茎)がなくなり、空間ができてしまう現象です。Bさんの場合、もともと歯が重なっていたため、歯茎が入り込む余地がなかったことと、歯の形が根元に向かって細くなる逆三角形型だったことが、その原因でした。この黒い隙間は、食べ物が挟まりやすいだけでなく、見た目にも老けた印象を与えてしまいます。せっかく歯並びが綺麗になったのに、新たなコンプレックスが生まれてしまったことに、Bさんは深く落胆しました。担当の歯科医師に相談したところ、改善策として「ストリッピングによる再治療」が提案されました。その計画は、まずブラックトライアングルができている歯の側面を、ストリッピングによってわずかに削り、歯の形を逆三角形から、より四角い形に近づけるというものでした。そして、削ってできたわずかな隙間を、再度ワイヤーで引き寄せて閉じることで、黒い隙間そのものをなくしてしまう、というアプローチです。Bさんは、もう一度装置をつけることに多少の抵抗はありましたが、この隙間と一生付き合っていくよりは、と再治療を決意しました。数ヶ月間の短い期間、前歯にだけ装置が装着され、ストリッピングと歯の移動が行われました。その結果、あれほど気になっていた黒い三角形の隙間は、ほとんど目立たないレベルにまで改善されたのです。Bさんの症例は、ストリッピングが単にスペースを作るだけでなく、歯の形態を修正し、より審美性の高い仕上がりを追求するためにも用いられる、非常に応用範囲の広い技術であることを物語っています。