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マウスピース矯正におけるストリッピングの役割
インビザラインに代表されるマウスピース矯正は、その目立ちにくさから絶大な人気を誇りますが、この治療法においても、「ストリッピング」は、計画通りに歯を動かすための、極めて重要な役割を果たしています。Cさん(31歳)は、全体的に軽度の歯のガタガタと、わずかな出っ歯感に悩んでいました。仕事柄、目立つワイヤー矯正には抵抗があり、マウスピース矯正での治療を強く希望していました。精密検査の結果、Cさんの症例は、抜歯するほどの大きなスペースは必要ないものの、非抜歯で治療するには、歯列全体で約4mmのスペースが不足していることが分かりました。そこで、歯科医師が提案したのが、マウスピース矯正とストリッピングを組み合わせた治療計画でした。その計画とは、治療の進行に合わせて、数回に分けて、主に前歯から小臼歯にかけての歯間に、合計で約4mmのスペースをストリッピングによって作り出すというものです。そして、コンピューター上で、その作られたスペースに向かって歯が移動するように、アライナー(マウスピース)の動きを精密に設計します。なぜ、マウスピース矯正でストリッピングが必要なのでしょうか。マウスピース矯正は、歯を覆うアライナーの弾性を利用して歯を動かしますが、ワイヤー矯正のように歯を強力に側方へ拡大したり、後方へ大きく移動させたりする力は、比較的弱いとされています。そのため、スペース不足を解消する手段として、ストリッピングが非常に有効なオプションとなるのです。Cさんの治療では、アライナーを5枚交換するごとに通院し、その都度、計画された部位にストリッピングが行われました。痛みはなく、処置も短時間で終わります。作られたわずかな隙間に、アライナーの力が効率的に働き、Cさんの歯は、シミュレーション通りに少しずつ整列していきました。約1年半後、治療を終えたCさんの口元は、ガタガタも出っ歯感も解消され、自然で美しい笑顔に変わっていました。Cさんの症例は、ストリッピングが、ワイヤー矯正だけでなく、マウスピース矯正の治療計画においても、その適応範囲を広げ、より精度の高い結果を導き出すための、不可欠なパートナーであることを示しています。
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矯正後のブラックトライアングルをストリッピングで改善
Bさん(35歳)は、約2年半にわたる歯列矯正を終え、長年の悩みだったガタガタの歯並びから解放されました。しかし、装置が外れた日、鏡を見て手放しで喜ぶことができませんでした。綺麗に並んだ上の前歯と前歯の間、歯茎に近い部分に、ぽっかりと黒い三角形の隙間ができていたのです。これこそが、矯正治療後にしばしば見られる「ブラックトライアングル」でした。ブラックトライアングルは、虫歯ではなく、歯茎が下がることで、本来そこを埋めていたはずの歯間乳頭(歯と歯の間の三角形の歯茎)がなくなり、空間ができてしまう現象です。Bさんの場合、もともと歯が重なっていたため、歯茎が入り込む余地がなかったことと、歯の形が根元に向かって細くなる逆三角形型だったことが、その原因でした。この黒い隙間は、食べ物が挟まりやすいだけでなく、見た目にも老けた印象を与えてしまいます。せっかく歯並びが綺麗になったのに、新たなコンプレックスが生まれてしまったことに、Bさんは深く落胆しました。担当の歯科医師に相談したところ、改善策として「ストリッピングによる再治療」が提案されました。その計画は、まずブラックトライアングルができている歯の側面を、ストリッピングによってわずかに削り、歯の形を逆三角形から、より四角い形に近づけるというものでした。そして、削ってできたわずかな隙間を、再度ワイヤーで引き寄せて閉じることで、黒い隙間そのものをなくしてしまう、というアプローチです。Bさんは、もう一度装置をつけることに多少の抵抗はありましたが、この隙間と一生付き合っていくよりは、と再治療を決意しました。数ヶ月間の短い期間、前歯にだけ装置が装着され、ストリッピングと歯の移動が行われました。その結果、あれほど気になっていた黒い三角形の隙間は、ほとんど目立たないレベルにまで改善されたのです。Bさんの症例は、ストリッピングが単にスペースを作るだけでなく、歯の形態を修正し、より審美性の高い仕上がりを追求するためにも用いられる、非常に応用範囲の広い技術であることを物語っています。