「これでコンプレックスから解放される」。そんな希望に満ちて始めた歯列矯正でした。しかし、治療開始から数ヶ月が経った頃、私の体に予期せぬ異変が起こり始めました。ある朝、ベッドから起き上がろうとした瞬間、天井がぐるぐると回るような、激しいめまいに襲われたのです。これまで経験したことのない感覚に、恐怖で心臓が縮み上がりました。その日を境に、私の日常は一変しました。めまいは不定期に、何の前触れもなくやってきます。電車に乗っている時、仕事でPCの画面を見ている時、ふとした瞬間に、ふわふわと体が浮くような感覚に襲われるのです。耳鼻科で検査をしても、三半規管に異常はなし。脳神経外科でも原因は見つからず、最終的に心療内科で「自律神経の乱れでしょう」と診断されました。薬を飲んでも、症状は一進一退。何より辛かったのは、この不調が、歯列矯正を始めてから起こったという事実でした。矯正歯科の先生に相談しても、「矯正治療が直接の原因とは考えにくいですが…」と、はっきりしない答え。インターネットで検索すると、「矯正で不定愁訴が悪化した」という声もあれば、「そんなはずはない」という意見もあり、情報に翻弄されるばかり。私の心は、完全に孤立していました。噛み合わせが目まぐるしく変わっていく時期の、脳が混乱しているような不快感。毎月の調整後の痛みによるストレス。そして、いつ治るか分からないめまいへの恐怖。これらが重なり、私は次第にふさぎ込むようになりました。転機が訪れたのは、治療開始から一年が過ぎた頃。ある程度歯並びが整い、噛み合わせが安定してきたのです。すると、あれほど私を苦しめていためまいの頻度が、明らかに減ってきたのです。完全に消えたわけではありませんが、日常生活に支障がないレベルにまで落ち着きました。今もまだ、私はこの不調と向き合っています。私の経験が、矯正による不定愁訴の全てを物語るわけではありません。しかし、治療中に心身が不安定になることは、誰にでも起こりうること。そんな時、一人で抱え込まず、信頼できる医師や家族に辛さを打ち明けることが、暗いトンネルを抜けるための、最初の光になるのだと信じています。
歯列矯正中に始まった原因不明のめまいとの闘い