本日は、数多くの矯正治療を手がけてこられた専門医の先生に、治療の鍵を握るとも言われる「矯正用ゴム」の重要性について、専門的な見地からお話を伺います。先生、そもそもなぜ歯列矯正ではゴムが使われるのでしょうか。はい、歯列矯正というとワイヤーで歯を動かすイメージが強いと思いますが、ワイヤーだけでは二次元的な動き、つまり歯列のアーチに沿った動きが中心となります。しかし、理想的な噛み合わせを作るには、上下の歯を三次元的にコントロールする必要があります。例えば、上の歯列全体を後ろに下げたり、下の歯列を前に誘導したり、あるいは横方向のズレを治したり。こうした複雑な動きを実現するために、上下の顎にまたがって力をかける「顎間ゴム」が不可欠なのです。ワイヤーが歯をレールに乗せる役割だとすれば、ゴムは電車を目的の駅まで引っ張っていく機関車のような役割を果たします。患者さんがご自身でかける顎間ゴムには、様々な種類があるようですね。その通りです。患者様の不正咬合の種類によって、ゴムのかけ方は全く異なります。例えば、出っ歯の治療で用いられるのが「2級ゴム」で、上の犬歯あたりから下の大臼歯にかけてゴムをかけ、上の前歯を後ろに下げる力を加えます。逆に、受け口の治療では下の犬歯あたりから上の大臼歯にかける「3級ゴム」を用いて、下の歯列を後方へ誘導します。その他にも、上下の歯の真ん中のラインを合わせるための「正中ゴム」や、横方向のズレを治す「クロスゴム」など、そのかけ方は多岐にわたります。これらを症例に応じて組み合わせることで、ミリ単位での精密な噛み合わせの調整が可能になるのです。患者さんの協力が不可欠ということですね。まさにその通りです。顎間ゴムの効果は、患者様の協力度に100%依存します。私たちがどれだけ精密な治療計画を立てても、患者様が指示通りにゴムを使ってくださらなければ、歯は計画通りに動いてくれません。ゴムかけは、私たち歯科医師と患者様がゴールを共有し、二人三脚で治療を進めていくための、最も重要な共同作業であるとご理解いただければ幸いです。