歯列矯正治療において、金属のワイヤーやブラケットと並んで極めて重要な役割を果たすのが「ゴム」です。ひとくちにゴムと言っても、その目的や形状によっていくつかの種類に分類され、それぞれが連携し合って複雑な歯の動きをコントロールしています。矯正治療を成功に導くために不可欠な、これらのゴムの種類と役割について詳しく見ていきましょう。まず一つ目は、ブラケットにワイヤーを固定するための小さな輪ゴム「モジュールゴム(O-ring)」です。一つ一つの歯に付けられたブラケットの溝にワイヤーをはめ込み、その上からこのモジュールゴムをかけることで、ワイヤーが外れないようにしっかりと保持します。ワイヤーの力を効率よく歯に伝えるための、縁の下の力持ちと言える存在です。このゴムは透明なものからカラフルなものまで様々な色が用意されており、毎月の調整日に色を変えることを楽しみにしている患者さんも少なくありません。二つ目は、複数の歯を連結して動かすための「パワーチェーン」です。これはモジュールゴムが鎖状に連なったような形状をしており、強い力で歯を引っ張り寄せることができます。特に、抜歯によって生じた隙間を閉じる際や、歯と歯の間の小さな隙間をなくして歯列を緊密にする際に用いられます。見た目は数珠つなぎのようで、装着すると歯がグッと締め付けられる感覚があります。そして三つ目が、患者さん自身の協力が最も重要となる「顎間ゴム(エラスティックゴム)」です。これは上下の顎にまたがってかけるゴムで、主に噛み合わせのズレを改善する目的で使用されます。例えば、出っ歯を治すために上の前歯を後ろに下げたり、受け口を治すために下の顎を後ろに誘導したりと、ワイヤーだけでは難しい三次元的な歯の移動を可能にします。この顎間ゴムは、食事や歯磨きの時以外は常に装着する必要があり、患者さんが自分で毎日交換します。これらのゴムはそれぞれ異なる役割を持ちながら、一つのオーケストラのように協調し、理想的な歯並びと噛み合わせというゴールへと導いてくれるのです。
歯列矯正で使うゴムの役割とは?三つの主要な種類を徹底解説