ついに私も歯列矯正の世界に足を踏み入れた。長年のコンプレックスだった歯並び。でも、あのギラギラした金属の装置だけは絶対に嫌だ、そう思っていた私にとって、クリニックのカウンセリングで出会った「白いワイヤー」はまさに救世主だった。これなら仕事中も気にしなくて済むかもしれない。少し割高にはなるけれど、数年間のことだと思えば安いものだ。そんな期待を胸に、私の矯正生活はスタートした。最初の数日は、想像以上の締め付け感と痛みで、食事もままならなかった。でも、鏡を見て驚いた。口を大きく開けない限り、ほとんど矯正していることが分からないのだ。友人との食事でも「え、矯正始めたの?全然気づかなかった!」と言われるほど。この一言で、白いワイヤーにして本当に良かったと心から思った。ただ、快適な日々ばかりではなかった。審美性の代償として、食事には人一倍気を使うようになった。歯科衛生士さんから「カレーだけは本当に気をつけてくださいね」と念を押されていたあの日。気の迷いで一口だけ、と食べてしまったイエローカレー。翌朝、鏡に映ったのは見事に黄色く染まった私のワイヤーとゴムだった。あの時の絶望感は忘れられない。それ以来、色の濃い食べ物には細心の注意を払い、食後の歯磨きは欠かさない。面倒に感じることもあるけれど、これも綺麗な歯並びを手に入れるための試練だと思っている。白いワイヤーは、確かに着色やコーティングの剥がれといったデリケートな側面も持つ。でも、それ以上に、矯正期間中の私の心を軽くしてくれた。周りの目を気にせず笑えることの価値は、何物にも代えがたい。矯正が終わるその日まで、この白い相棒と共に、もう少しだけ頑張ってみようと思う。