本日は、数多くの症例を手がけてこられた矯正専門医の先生をお招きし、近年注目を集める「一年で終わる歯列矯正」について、その実態と注意点を伺います。先生、単刀直入に、歯列矯正は本当に一年で終わるのでしょうか。はい、それは「症例による」というのが最も正確な答えになります。例えば、前歯の少しの隙間や傾きだけを治す部分矯正であれば、一年以内、場合によっては半年ほどで完了することも珍しくありません。しかし、これはあくまで奥歯の噛み合わせに問題がないことが大前提です。一方で、抜歯をして歯を大きく動かす必要がある場合や、顎の成長をコントロールする必要があるお子様の治療などでは、一年で終えることはまず不可能です。一般的に、全体矯正には平均して二年程度の期間を見ていただくのが現実的です。では、「短期矯正」や「スピード矯正」と謳われている治療法には、どのような技術が用いられているのでしょうか。治療期間を短縮するための選択肢として、いくつかのアプローチがあります。代表的なのは、歯科矯正用アンカースクリューの使用です。これはチタン製の小さなネジを歯茎の骨に打ち込み、それを支点として歯を動かす方法で、従来の方法よりも効率的に歯の移動をコントロールできます。また、より外科的な手法として、歯を支える骨に意図的に切れ込みを入れて歯の移動を促進するコルチコトミーといった方法もあります。しかし、これらの方法は全ての患者様に適応できるわけではありませんし、外科処置には当然ながら相応のリスクも伴います。無理に治療期間を短縮することのリスクについて、もう少し詳しく教えていただけますか。歯というのは、骨の中を溶かしながら移動し、移動した先で新しい骨が作られるという非常にゆっくりとしたサイクルで動きます。この生理的なペースを無視して無理な力をかけると、歯の根が溶けて短くなってしまう「歯根吸収」という深刻な副作用を引き起こす可能性があります。また、歯の周りの組織が安定しないうちに治療を終えてしまうと、後戻りのリスクが非常に高くなります。急いで治療した結果、すぐに元に戻ってしまっては本末転倒です。「一年で終わる」という魅力的な言葉だけで判断するのではなく、なぜその期間で終えられるのか、その具体的な根拠や方法、そして考えられるリスクについて、きちんと説明してくれるクリニックを選ぶことが何よりも重要です。
歯科医師に聞く短期矯正の真実とリスク