歯列矯正は、長年のコンプレックスや健康上の問題を解決してくれる素晴らしい治療ですが、その過程で、予期せぬ心身の不調、いわゆる「不定愁訴」に悩まされる患者さんがいるのも事実です。もし、あなたが治療中に原因不明の不調を感じた時、それは気のせいだと我慢せず、適切な対処をすることが非常に重要です。なぜ、矯正治療中に不定愁訴が起こりうるのでしょうか。まず考えられるのが、「噛み合わせの変化に対する不適応」です。治療中は、歯が動き、これまで安定していた噛み合わせが一時的に不安定になります。脳や顎の筋肉が、この目まぐるしい変化にうまく適応できず、混乱をきたすことで、めまいや頭痛、倦怠感といった症状が引き起こされることがあります。次に、「矯正装置による物理的・精神的ストレス」です。口の中に常に異物があるという違和感、装置が粘膜に当たってできる口内炎の痛み、思うように食事ができない不便さ、そして治療の痛みそのものが、持続的なストレスとなります。このストレスが自律神経のバランスを乱し、様々な不調を引き起こす原因となり得るのです。また、「過度な矯正力」もリスク要因の一つです。早く治療を終えたいからと、歯に強すぎる力をかけると、歯根や歯槽骨に過度な負担がかかり、歯の痛みだけでなく、顎関節の痛みや頭痛に繋がることもあります。もし、治療中にこれまでなかったような頭痛や肩こり、めまい、耳鳴りなどの症状が現れた場合、まず行うべきは「我慢せずに、すぐに担当の矯正歯科医に相談する」ことです。「気のせいだろう」「もう少し様子を見よう」と放置してしまうと、症状が悪化したり、精神的に追い詰められたりする可能性があります。正直に症状を伝えることで、医師は矯正力を調整したり、噛み合わせのバランスを一時的に整えたり、あるいはストレスを緩和するためのアドバイスをくれたりするはずです。それでも不安が解消されない、あるいは医師が真摯に対応してくれないと感じた場合は、他の専門家の意見を聞く「セカンドオピニオン」を求めることも、決してためらうべきではありません。あなたの心と体の健康が、何よりも最優先されるべきなのです。