最近、カウンセリングで「顔の歪みを治したい」というご相談をいただくことが、目に見えて増えました。スマートフォンのカメラ性能が上がり、ご自身の顔を客観的に見る機会が増えたことや、SNSで左右対称の顔が美しいとされる風潮などが影響しているのかもしれません。実際に、歯列矯正で顔の歪みが改善することは少なくありません。特に、噛み合わせのズレによって顎が機能的に偏っている、いわゆる「機能的下顎偏位」のケースでは、矯正治療の効果は絶大です。正しい噛み合わせに導くことで、顎が本来のセンターの位置に戻り、驚くほど顔のバランスが整う患者様もいらっしゃいます。しかし、ここで正直にお伝えしなければならないのは、歯列矯正には限界があるということです。顔の歪みの原因が、顎の骨自体の大きさや形の非対称性にある「骨格性」の場合、歯を動かすだけの矯正治療では、歪みそのものを根本から治すことはできません。歯並びは綺麗になっても、顎の非対称性は残ります。そのような患者様には、顎の骨を切って位置を修正する外科手術を併用した「外科的矯正治療」という選択肢をご提案します。もちろん、手術にはリスクも伴いますので、患者様ご自身が何をどこまで望むのか、じっくりと話し合う必要があります。また、治療後に「顔が歪んだ」「頬がこけた」と感じる方がいらっしゃるのも事実です。これは、特に抜歯を伴う矯正で口元が後退した場合に、頬や唇といった軟組織がその変化に追随して起こる現象です。多くの場合、客観的に見れば顔のバランスは改善しているのですが、ご自身が見慣れた顔と変わることで、ネガティブな印象を抱いてしまうのです。だからこそ、私たちは治療前にCTデータなどを用いた3Dシミュレーションを行い、治療後の顔貌の変化をできるだけ具体的に予測し、患者様にお見せするようにしています。治療のゴールを共有し、起こりうる変化を事前に理解していただくこと。それが、患者様の満足度を高め、後悔を防ぐために最も重要だと考えています。
矯正歯科医が語る顔の歪みと治療のリアル