私たちは、知らず知らずのうちに「左右対称(シンメトリー)」であることに美しさや正しさを感じています。それは顔においても同様で、多くの人がシンメトリーな顔立ちに憧れを抱きます。そして、自分の顔のわずかな非対称性を「歪み」と捉え、それを歯列矯正で完璧に治したいと願うことがあります。しかし、ここで一度立ち止まって考えてみましょう。そもそも、完全に左右対称な人間の顔は存在するのでしょうか。答えは、否です。どんなに整っているように見える顔でも、ミリ単位で見れば必ず左右差は存在します。それは、利き腕や利き足があるように、顔の筋肉の使い方や骨格の発達にも、わずかな偏りが生じるのが自然だからです。歯列矯正の第一の目的は、顔を完璧なシンメトリーに作り変えることではありません。その本質は、見た目の美しさはもちろんのこと、上下の歯がしっかりと噛み合い、食べ物を効率よく咀嚼できる「機能的な咬合」を獲得することにあります。そして興味深いことに、この「機能」を追求すると、結果として「見た目の調和」がもたらされることが多いのです。例えば、噛み合わせのズレを治すことで、顎が正しい位置に戻り、左右の筋肉がバランス良く使われるようになります。これにより、長年の癖で生じていた筋肉の非対称性が改善され、顔全体の印象が自然で調和の取れたものに変わっていきます。これが、歯列矯正がもたらす「歪みの改善」の正体です。歪みをゼロにすることに固執するあまり、わずかな左右差が気になって、治療後も満足できないとしたら、それはとても不幸なことです。歯列矯正を通じて目指すべきは、実現不可能な完璧さではなく、自分自身の骨格の中で、最も機能的で、最も健康的で、そして最も調和の取れた笑顔を手に入れることではないでしょうか。少しの非対称性は、あなたの個性の一部です。矯正治療は、その個性を輝かせ、より自分らしい、自信に満ちた笑顔を作るための、素晴らしいきっかけとなり得るのです。
完璧な左右対称は存在しない?歯列矯正と顔の調和