メーカーの広報として働く田中さん(26歳)は、人前に立つ機会が多い仕事柄、笑った時に少しだけ重なって見える上の前歯がずっと気になっていた。全体的な歯並びは悪くないだけに、この一点が彼女の自信を削いでいた。歯列矯正を考えたものの、数年にわたる治療期間がネックとなり、決断できずにいた。そんな彼女が転機を迎えたのは、矯正専門クリニックでのカウンセリングだった。歯科医師は彼女の口腔内を丹念に診察し、レントゲン写真を確認した後、こう告げた。「田中さんの場合、奥歯の噛み合わせは非常に良好です。問題は前歯二本の重なりだけですね。これであれば、歯を全体的に動かす必要はなく、前歯だけを対象とした部分矯正で、一年もかからずに綺麗になりますよ」。部分矯正。それは田中さんにとって初めて聞く言葉だった。全ての歯に装置をつけるのではなく、気になる部分とその周辺の歯だけを動かす治療法だという。全体矯正に比べて費用が抑えられ、何より治療期間が劇的に短い。彼女が抱えていた二つの大きな懸念を解消する、まさに理想的な提案だった。治療は、上の前歯六本に透明なブラケットと白いワイヤーを装着する形で行われた。最初は多少の違和感があったものの、目立ちにくい装置のおかげで、仕事への支障はほとんどなかった。通院は月に一度。毎回、ワイヤーが締められる感覚と共に、歯が理想の位置へと動いていく実感があった。そして、治療開始からわずか八ヶ月後。彼女の前歯の重なりはすっかり解消され、美しいアーチを描いていた。装置を外した日、鏡の中の自分に微笑みかけた田中さんは、その自然で明るい口元に心から満足した。彼女が一年という短期間で長年のコンプレックスを解消できたのは、彼女の症例が「部分矯正」の適応範囲に合致していたからに他ならない。全体の噛み合わせに問題がなく、悩みが局所的であったこと。これが、短期治療を可能にした最大の要因である。歯列矯正は全てのケースで長い期間を要するわけではない。田中さんのように、限定的なアプローチによって、迅速に笑顔の質を高めることができる場合もあるのだ。
なぜ一年で矯正を終えられたのか?部分矯正の選択